「小林さんという方がね、いちばん最初にお見舞いに来てくださったんですよ。それでね、そのマグカップを持って来て、母にコーヒーを飲ませるなんて言うものですから。まだコーヒーはダメなんですって、私がお話ししたら、すごく残念そうで」




(小林部長が浪岡さんに、コーヒー?)




春江さんは、浪岡さんにそっくりなテンポで、楽しそうに軽快に話した。





「なんでも、このマグカップが、不思議なパワーがあるとかで」





(…えっ?)





「僕がいつも飲んでいる、元気のでるコーヒーをいれますから!って。すごく面白い人ね、小林さんって。コーヒーがダメなら、お茶でも白湯でも良いから、浪岡さんにこのマグカップで飲ませてやって下さい!って、預けられたんですよ」





(元気がでるコーヒーって…。小林部長…なに言ってるの…?)





春江さんは、ふふふ、と笑った。浪岡さんと同じ笑顔だ。




あゆみは、もう何も言えなかった。

そのあと笹原主任や春江さんがなにを話しても、ほとんど頭に入ってこなかった。

小林部長は、本当はだれよりも、浪岡さんのことを心配していたのだ。