どう見ても、同じだった。

間違いない。部長のマグカップとまったく同じものが、ベッドの隣にある棚に置かれている。




「あの…浪岡さん…これ…どうして?」




あゆみはマグカップを手に取った。

さっとカーテンがめくられて女の人が入って来る。浪岡さんとよく似た女の人だった。



「あら。母さん、よかったわね。皆さん来てくださって」



明るい声で浪岡さんに呼びかける。声も浪岡さんにそっくりだ。




「母がいつも、お世話になっています。娘の、春江と申します」




「笹原です。こちらは、事務員の宮間と桜庭です」




あゆみもぺこりと頭を下げる。あゆみの手元のマグカップに気付いたらしい春江さんが、「あ、それ」と言って、あゆみに向かって微笑んだ。




「えっ…あ、すみません。これと同じものをその…持っていたもので、つい…」



あゆみは慌ててマグカップを棚に戻した。



「それはきのう、小林さんという方が持って来てくださったんです。母の為に」



「…えっ?小林部長が…?」



一体どういうことだろうとあゆみは思った。自分のマグカップを浪岡さんに持って来るなんて、意味がわからない。

だいいち、小林部長はお見舞いになんて行かないとあれほど豪語していたのに。