浪岡さんがベッドから、身体を半分起こして迎えてくれた。片手に点滴が痛々しくつながれている。淡いピンク色の小花柄のパジャマを着た浪岡さんは、いつもより何倍も老けて見える。

命に別条はないとはいっても、すぐには戻って来られないかもしれない。あゆみは、直感でそう思った。





「浪岡さんがいないと、大変だよ」




笹原主任が、優しい笑みを浮かべながら言った。あゆみも隣でうんうんと頷く。




「ほんとに。早く戻ってきてください、浪岡さん」




「浪岡さんの声がしないと事務所が静かで落ち着かないよ」




そう言って笑ったのは宮間さんだ。宮間さんは続けた。



「浪岡さんがいれたお茶じゃないと、美味しくないってマツも言ってたよ。あたしがいれたお茶じゃ、気に入らないんだって。生意気だよ。浪岡さん、いつものお茶っ葉の銘柄ってなんだっけ?なくなったから買いに行かなきゃいけないんだけど」



浪岡さんは、静かに笑った。まだあまりたくさんは話せないらしい。いつもの浪岡さんなら、お茶の葉はどこどこの何じゃなきゃ!なんてすぐに返事が返ってくるはずなのに。


浪岡さんは小さく掠れた声で、「あれ」と言ってベッドの隣にある棚を指差した。



「ああ、お茶の葉ね?いつもの?ここに入ってるんだ」



宮間さんが気づいて棚を探ると、確かにお茶の葉の袋が入っていた。宮間さんはそのお茶の葉の銘柄を携帯にメモしている。



あゆみがふと見ると、棚の上にある、見覚えのあるものが目に入った。




「えっ…これって…」