二階のフロアから階段を使って一階へと下りて行く。

小林部長は相変わらず早足で、あゆみがそれを小走りで追いかける形だ。



「俺、階段が好きなんだ」


タンタンタンと階段を下りながら、小林が言った。

やっぱりこの人はちょっと変わっているとあゆみは思った。エレベーターがあるのだから、エレベーターを使えばいいのに。


「そ…そうなんですか…」


苦笑いで小林の後を追いかけながら、あゆみが答える。


「下りより、上りのほうが好きなんだけどね」


タンタンタン。もう少しゆっくり下りてくれないと、ただでさえ急な階段に慣れないパンプスで、いまにも躓きそうだ。



「どうして上りのほうが好きだと思う?」


タンタンタン、タンタンタン。
小林はやけに楽しそうに、あゆみに聞いた。やっぱり、変な人だとあゆみは思った。


「わかりません。どうしてですか」



「上りきったときに達成感があるから。あと、前を上ってる女の人のお尻を眺めるのが好きなんだよね」


タンタンタン、タン。

一階の踊り場に着くと、小林はまだ数段高いところにいるあゆみを見上げた。



「危なっかしい下り方するね、あゆみちゃん」


小林が、右手を差し出した。


「えっ…」


踊り場まであと二段というところで、小林と目が合った。小柄なあゆみと小林は、階段二段ぶんの身長差があるらしい。手を差し伸べられて、どうすれば良いのかわからなかった。あゆみは思わず、「だ…大丈夫です!」と言って踊り場に駆け下りた。