「…お願いします!」




「…そんなこと言われても…。定時が終わってから新しい仕事始めるなんて、なぁ…」




若手の職人たちは、言い合わせたかのように皆「うーんちょっと…」と呟いた。



ライバル会社の存在と事情を話してみたけれど、返事はみな同じだった。あゆみはがっくりと肩を落としながら、加工場で一人ひとりに残業を頼んで回った。


嫌がられるのも当然だ、とあゆみは思った。

一度加工がスタートすれば、終わるまで自分ひとりの意志では止められない。納期は早ければ早いほど良いなんて。そんな仕事を定時を過ぎてからスタートするなんて馬鹿げている。信じられないと思うのも無理はない。



十人以上に残業を断られて、あゆみは心が折れかけていた。明日からにすればいいのかもしれない。山内金属と競争なんてせずに、出来るペースで生産したっていいはずなのだ。今回だけと頼まれている立場なのだから、本来は無理をする必要なんてないはずなのだ。



気付けば、あゆみは加工場の端まで歩いてきてきてしまっていた。