「今、生産中の品物は順調だと言っただろ?」
「はい…」
「僕が言う、順調だっていうのはね、職人さんもパートさんも、残業なしで納期通りに納品できるペースのことなんだ。この意味がわかる?」
「…どういうことですか…?」
「…つまり、定時が過ぎればラインは空だ。人がいないだけで、機械も加工スペースも空いている」
「…あっ…!」
あゆみはぱっと顔を輝かせた。希望の光が差し込んだ気がした。
「材料の入荷はいつ?」
「はい、今日中には到着する予定です!」
「なら、あとは桜庭さんの腕次第だな。きみの為に、だれが何時まで残ってくれるかな?なにしろうちは、自由気ままな職人さんの集まりだから。まぁ、その分、技術力はどこにも引けを取らないけどね」
笹原主任は、試すような目であゆみを見た。
(わたしのために…?…そうか…、予定にない残業をしてもらうって、そういう事なんだ…。石橋さんや浪岡さんなら、すんなり話が通るってことなんだろうな…)
「わかりました」
あゆみは気合を入れ直した。やるしかない。わたしだって、立派な会社の一員だ。この仕事が成功すれば、大きな得意先が増えれば会社はもっと良くなるはずだ。
大丈夫。話せば誰かはきっとわかってくれる。
あゆみは図面を握りしめて階段を駆け下りた。



