小林部長はあゆみの一歩前をタッタッと小気味よいリズムで歩いていく。圧倒的に歩幅が違うせいで、あゆみは小走りで後を追いかけなければならなかった。


女の子の歩くスピードに合わせるとか、そういう優しさはないのかしらとあゆみは不満に思ったが、そういうところが変わり者と言われる理由のひとつなのかもしれない。ヒールを3センチにしておいて正解だった。元々高いヒールのパンプスで歩くのは苦手なのだ。


社内の廊下をしばらく歩くと、小林はある部屋のドアの前で立ち止まった。ドアはストッパーで開けっ放しにされている。小林に追いついたあゆみは、彼の背中越しに部屋の中を覗き込んだ。


「この課のメンバーに、あゆみちゃんを紹介しておこう。ちょっとこの部屋は手強いよ」


小林は悪戯っ子のような笑みを浮かべてあゆみに言った。


「ちょっと、ここで待ってて。俺が呼んだら、中に入っていいから」


小林はあゆみにそう告げると、ひとりで部屋の中へと入って行った。
中を覗きたいけれど、ちょうど大きな棚の死角になっていて見えない。小林が部屋に入ってしばらくすると、中から女の人の笑い声が聞こえてきた。笑い声を聞いている限りでは、どうやら相当の数の女の人が中にいるらしい。

しかも、あゆみの耳が正しければ、笑い声の主は若い女性ではないようだ。
あんな超美男子を目の前に、ガハハとかわっはっはと大笑いできるのは、オバチャンと呼ばれる年齢の女性以外に考えられない。