足を止めた私にもう一度「乗って?」と言う彼に大人しく従う事にした


そんな私を見て大袈裟にハァ、と溜息をつく彼



『あ、あの…』


――貴方は誰ですか?と聞く前に、車は会社とは逆方向に走って行った





「営業部の太田(オウタ)」


『え?』




ポカンと彼を見ると、ハァとまた溜息をついた



「君、顔に出やすいよね。名前知りたそうだから、一応教えたんだけど」

小馬鹿にしたような声



『有難うございます。楠彩です』

ペコリ、と頭を下げると"知ってる"と返された



『え?』



「新入社員にすっごい地味な女が1人いるって噂でさ。一目見た時君だってわかっちゃったから」


『…』




そんな噂立ってたのね


何も言い返せなくなって下を向く



「…君、さ」


『はい?』




視線に感じて視線を彼に向けると、彼は手をゆっくりと私の顔に伸ばして


「小説とか漫画みたいに、眼鏡とると案外可愛くなっちゃったりして?」


と言って『辞めて下さい!』と言う私の声を無視してメガネを取った






「――――ッ」


一瞬、彼の目が見開かれた



この距離ならまだ見える、そんな彼に不思議に思いつつ


『返して下さい』


と発すると我に返ったものの、メガネを


『―――あっ!』

パキッと音を立てて割った





ん、と返されるメガネ

そのメガネはもうかけられる事もなく真っ二つに割れていた