とりあえず、次に来た電車に揺られて会社まで徒歩2分程の道を小走りで走る


カッカッカッと鳴るヒールの音と、汗




体力がなさ過ぎて辛い







信号を待っていると、会社の方から黒塗りの車が私の横を通り過ぎ―――


『え、』


た訳ではなく、私の隣に止まった






一瞬意味が分からなくて立ち止まると、ゆっくりと車の窓が開く


それの後部座席から顔を出すのは、スーツを着た綺麗な男の人




『―――、』


一瞬、一瞬だけ見惚れてしまう自分がいた







「――――君、そこの職場の人?」


チラリ、と私の顔を見ながら言う綺麗な人




何故私がこの会社の人だと分かったのだろう、と考えたが首にぶら下げた入社証を見たのだろう




『…はい、そうです』

嗚呼、この人は誰?



こんな事してたら9時を過ぎちゃう―――…





「―――ふーん、じゃあ乗ってよ」



『え?』


今、なんと?




この男の人は中からドアをパカッと開けて一歩下がった


そして、手を空いたスペースを指して"座って"と言う



『―――困ります。もう行かなくては遅刻してしまいます』

もうすぐそこに会社が見えるのに、車なんて乗ってしまうより走った方が早いに決まってる



ペコリ、と頭を下げて去ろうとしたら


「顔は汗でビチャビチャメガネも曇ってる。そんな恰好で会社に行くのなんて君くらいだと思うよ?」

その声を聞いて、ピタリと足が止まった




『―――ッ』

馬鹿に、されてる?