「おはよ。」
「ゆずっち、昨日は大丈夫だった?顔色悪かったけど。」
翌日、学校へ行くと、みかんちゃんにこう聞かれた。心配しないで、と言っておいてなんだが、こんな言葉をかけて貰えたのは素直に嬉しかった。
「本当?私達、ずっと心配してたんだから。」
そう言って、またあかりちゃんは私に抱きついてくる。私はまだ慣れず、ドキドキしてしまう。実際、彼女のこのような行動が私の悩みの種なのだが、彼女には全く悪気はないのだ。
そう、悪いのは私一人。よくわからない事に悩み、よくわからない事に傷ついている。なんて面倒臭い女なのだろうか。
「うん、二人ともありがとう。心配してくれてすごく嬉しいよ。でも、本当に大丈夫だから。」
それならいいけど、と二人は言ったが、どこか納得していない様子だった。私は自分が思っている以上に、嘘をつくのが苦手らしい。これは誇っていいことなのか、どうなのか。
「それよりさ!昨日、聞きそびれちゃったんだけど、二人はなんの部に入ってるの?」
明らかに無理がある話題転換だったが、二人も私の意を汲んでくれたのだろう。それ以上は何も言わずに、その話題に乗ってくれる。
「私達は家庭科部。料理作ったり、裁縫したり、まあ色々するあれだよ。」
「みかんは下手くそでね~、何をやらせてもダメなんだよ。」
「あかりも大したことないだろ。なんだあの変な熊なぬいぐるみは?」
「みかんのよりはマシだもん。」
二人の熊のぬいぐるみってどんなだろう…。みかんちゃんはともかく、あかりちゃんが不器用というのは意外だ。ふたりのぬいぐるみを、ちょっと見てみたい気がする…。と、その時私は、二人がお互いを下の名前で呼び捨てで呼びあっている事に気づいた。
「二人は付き合い長いの?」下の名前で呼び合う、という行為事態は別に特別なものではないのかもしれない。しかし、私には呼び方に、長い月日を経なければこもらない何かがあるように感じたのだ。
「ああそうだね。小学1年生くらいから一緒なんじゃないかな。まあいわゆる腐れ縁ってやつだよ。」
「え~腐れ縁なんてひどい!私はみかんのことが好きなのに~。」
私は二人の間に、誰も入れない、固い絆があるように感じた。そしてまた、昨日感じたモヤモヤとした気持ちが込み上げてくる。なんで?あかりちゃんもみかんちゃんもとってもいい人達なのに。今は全然、暗い話なんてしてないのに。
また私が悩み始めそうになった時、学校の朝会の開始を告げるチャイムがなった。私はその時、どこかホッとしたような気持ちになった。何故?悩んでいることを二人に悟られ、また二人に余計な心配を掛けるような事にならずにすんだから?それとも――二人の固い絆の中に入れず、疎外感を感じている状況が続かずにすんだから?