「だめだ遅刻だっ」
夢にまで見た高校生活の幕開けとなったある晴れた日、私は恐らく前代未聞の大失態を犯してしまいました。

「で?何で遅れたのですか?」
新しい担任の先生に、入学式後早々怒られている。いかにも国語の先生という、どこか昔風の面影のある女性だった。

「…道に迷いました。」
しおれながら理由を言うが、信じてもらえない。先生の表情は硬いままだった。
「本当に?寝坊した言い訳ではないの?」
「本当ですっ」
「式に遅れるなんて言語道断です。そもそも遅れるなら連絡の1つ何故して来なかったのですか。」
う…。
それを言われると頭が痛い。
無我夢中で走っていたあの時、学校に連絡を入れるという考えが及ばなかったのだ。

ああ。入学早々担任の先生に嫌われたかなあ…。私の第一印象が悪すぎじゃないか。

「あなたのおかげで大変だったんですよ。式の開始時間は遅れるし、来賓の方に心配をお掛けしました。先にクラスに集まっていたクラスメイトにも迷惑をかけたんです。高校生はもう、大人なですよ。きちんと考えて行動しなさい。」

…先生の言うことは全部間違っていない。
悪いのは全部自分だから怒ってはいけないのはわかっている。だけど…。
(今日は入学式なのに。私は誰からも祝福されないどころか怒られているのか。小言はまた聞くから今日はこのへんで終わって欲しい…。)
描いていた夢とのあまりの相違に、薫のテンションはマイナスになり涙さえも溢れ出す。

夢の高校生生活に忍びよる黒い影に薫が不安を覚えたその時だった。