「次はお待ちかねのイルカショーです!」
アナウンスが聞こえた途端に館内は子ども達の歓声で包まれる。
両親を急かし目には期待の色を浮かべながらイルカコーナーへ向かう。
イルカのいるプールは水族館の入り口近くにあり、そのプールを半円で囲むように階段状の席が設置されている。
裕美は一番下の段に両親に挟まれる形で座った。
目の前を横切るイルカ達。ガラス越しに覗き込むそのまなざしに裕美は見入った。
やがて奥のドアが開き、飼育員が三人出てきた。
一人の若い女性の飼育員がプールの淵に立つ。一頭ずつイルカを呼び寄せ、少し様子を見てから帰す作業をしている。
その間に残り二人の飼育員は前にいるお客さんにビニールを渡している。裕美はなんのためかわからなかったが、父が水しぶきで濡れるのを防ぐためだと教えてくれた。
そしていよいよショーが始まった。
若い女性の飼育員が自分の足元へイルカを呼ぶ。水面から顔を出した三頭のイルカ達を見ながら首からさげた笛を短く鳴らす。するとイルカ達は一斉に深く潜った。姿を探す間も無くプールの真中からイルカ達が現れる。
水面を舞い上がったイルカは大きく勇猛で、しかしどこか触ると砕け散りそうな繊細さも感じられた。
裕美は水しぶきの光の中を舞うイルカから目を離すことは出来なかった。