「…ただいま」
広い玄関に響いた私の声に、反応する人はいない。
いつも通りのこの状況に、いい加減嫌気がさす。
私の母はこの近所の総合病院に勤めている。
ここ数ヶ月、夜勤が続いているのだ。
父は、いない。
私が生まれてすぐ、交通事故に遭ったそうだ。
だから顔も覚えていない。
記憶が無いから、そんなに気にならないのかな、なんとなく思考してみた。
お気に入りのスニーカーを脱ぎ捨て、自分の部屋へ向かう。
その途中、リビングにつながるドアが開いていることに気づき、閉めに行こうとする。