食器を片づける手を休めることなくあたしは言う。


「“童貞”の隠語じゃなかったっけ? あれ? ちょっと違うか」


男が童貞――つまりエッチ未経験のまま、ある年齢に達することを“魔法使いになる”って言うんだよね。

まぁいわゆる自虐ネタなんだろうけどさ。


「あれって……たしか30歳だっけ? 怜央はまだ18だから、童貞だけど、魔法使いにはなれてないね。見習いってとこですか?」


ププッと含み笑いしながら言う。
怜央とはお互いに異性を意識していない。だからこんなぶっちゃけトークもできちゃうのだ。


「人のこと童貞童貞言うな。 オレはそういうの、大事にしてんだよ」


大事に……って、お前は乙女か!
そうつっこみたくなるようなセリフを、ごく当然のように言う。

こういうとこ、怜央らしいなって思う。

怜央は本気で好きになった女の子としかつきあわない。エッチもしない。そう心に決めているらしい。