「そ。お客さんの席をまわって、手品を披露するってヤツ」

「手品……かぁ。えー。なぁーんだ。そっかー」


なんか脱力。

知ってみればなんてことはなかった。

あれは魔法じゃなくて、種も仕掛けもちゃんと存在する単なる手品だったんだ。

冷静になって考えてみればそうだよね。

なんで一瞬でも魔法だなんて信じちゃいそうになったんだろう。


「でも、なんで保奈美がそんなこと知ってんの?」

「ああ。その店のオーナーとうちのお姉ちゃんが知り合いでさー。あたしと同じ高校の子がバイト始めた、しかもすごいキレイな男の子だって言うからさ。特徴聞いてすぐにピンときちゃった、怜央くんだろうなって」

「そうだったんだぁ」

「うん。まぁ、バーというか昼間も営業してるし、カフェっぽいお店なんだけどね。今度一緒に行ってみる?」


顔をのぞきこまれ、戸惑ってしまう。

今、怜央に会うのは気まずすぎる。


「うーん。あたしはいいかな。怜央が嫌がりそうな気がする。バイト始めたことも話してくれてなかったし」

「えー。気にしすぎじゃない?」

「いいのいいの」


ハハッと苦笑いを返して、あたしはアイスラテを一口飲んだ。