彼の言動に驚いて、固まってしまったあたし。

怜央は一歩前に出ると、そのまま顔を近づける。


「やっ……」


唇が触れそうになった瞬間、あたしは少しのけぞり、とっさに腕で顔をガードした。


「なんでよけるの?」

「あっ、当たり前でしょ!」


怜央とキスなんてできるわけない。

あたし達、単なる幼なじみだったじゃん。お互い恋愛対象として見てなかったから、ずっと一緒にいられたんじゃないの?

怜央はまっすぐな目であたしを見つめ、言った。


「……西村(にしむら)に悪いから?」


怜央の口から出たその名前に、あたしの体はピクンと震えた。

そして、コクン……と小さくうなずく。


「麻衣って、無神経なとこあるよね。今更彼氏に悪いとかさ……。オレのこと部屋に入れた時点で、充分、うしろめたいことやってるとは思わなかったの?」


「だって……それは……怜央だから。あたし達そういうのじゃないじゃん」


ハっと短く息を吐き出して、うつむく怜央。

呆れたような低い声で言う。


「オレのこと男にカウントしてないってか。そういうとこが無神経だっつーの」