そうだよね。あたしだって一人暮らしのこと、怜央に相談したわけでもないし。

全部ひとりで決めて、話したのはつい最近のことだった。

あたしにはあたしの、そして怜央には怜央の生活がある。
お互い知らないことがあるのは当然だ。


自己嫌悪に陥って、少ししょんぼりしているあたしの顔を怜央がのぞきこむ。

その目はもう怒っていないようだったから、あたしはホッとした。


「じゃ。もー行くけど」

「うん」

「元気でな。あと、頑張れよ、色々とさ」


そんな言葉に胸がざわつく。
まるでこれでお別れみたいじゃん。


「なにその言い方。なんか、もう会えなくなっちゃうみたいじゃん。あたし、なんだかんだ言って、ちょくちょく家に帰ると思うよ?」


実家を出たといっても、電車で1時間半ぐらいの距離だ。

ホームシックになれば、いつでも戻れるし、怜央にだって会いたいと思えば会えるはず。


「そっか」


デニムのポケットに手をつっこんだ怜央がじっとあたしを見つめる。

165センチのあたしと、170ちょっとの怜央とは目線はそう変わらない。