桜*フレーバー

「だから、さっきからそう言ってんだろ」

「じゃー。他にも魔法使える? 例えばホウキに乗って空を飛ぶとかさ」


あたしの中にある魔法使いのイメージといえばソレだ。ハリーポッターだって飛んでたし。


「ホウキはまだできない。だってオレ、誰かさんが言うとおり、“見習い”ですしー」


嫌味っぽくそんなことを言う。

どうやらまださっきの“童貞”のくだりを引きずってるらしい。18歳の男子にとっては、踏んでほしくない地雷だったのだろうか……。


「ホウキはいいとして。他は? ねぇ、他にもどんな魔法が使えるの?」


あたしがそう詰め寄ったその時、怜央は壁掛け時計をチラリと見て、「あ……」と声をあげた。


「ごめん。オレ、もう行くわ。魔法はまた今度な」


そう言いながら、来た時につけていた春っぽいやわらかな素材のストールを首に巻きつける。

そして鞄を手に立ち上がった。

帆布製の縦長トート。いつもあまり荷物を持ち歩かない怜央にしては大きな鞄だな……と、今朝会った時から、気になってたんだよね。


「今からどこかいくの?」


玄関に向かう彼の後ろを歩きながら、その背中に問いかける。


「うん。バイト」

「は? バイトやってんの? いつから?」