貴也が目を見開いている。
俺がこんなこと言うなんて思ってなかったんだろう。


「おい。俺が良い事言ったんだから何か言えよ。」


「あ、あぁ。わりぃ。何か感動しちゃってさ………なぁ、淳。お前はいつまで経っても俺の友達で居てくれるよな。」


当たり前だ。
ずっと一緒にいたのに今更やめるなんて無理だろ。
アホかこいつ。


「何当たり前のこと聞いてんだよばーか。」

俺はじゃぁなと言って家の中に入っていった。



それからというもの、貴也は心置きなく優とラブラブしてるんだと。

あーぁ、うざったいうざったい。


幸せなんだな…2人共。
俺のおかげじゃん!

さすが、俺。


ヴーヴーッ
自分で自分を褒めていると携帯がなる。


誰だよと思い電話に出ると…………


『あっ淳ちゃん?ぼくぼく!!ぼくだよ!』


「…………………オレオレ詐欺ならぬぼくぼく詐欺か…」


『冗談!涼太だよ、久しぶりっ』


「あぁ、で、なんの用?」


『んー…………特にない………』


「切っていいかな……」


『あぁー!待って待って!ねね、明日会えない?』


「明日?別にいいけど、何で?」


『淳ちゃんに会いたいから!!』


「…あっそ。いいよ。じゃぁな。」


ブチッ
ききき、切ってしまった…………


女の子にはいつも告白されてるけど男慣れしてない俺。
貴也とだってそういう関係になった事ないし、男から恋愛対象として見られたことなんて一度もなかった。


だから今……………


心臓うるさいです。


くっそ!
何なの!?
なになになになに?
俺への嫌がらせか!?
何であいつあんな恥ずかしいこと言ってんの!?

意味分かんねー!!!






ってことで、翌日。

「いつも通りいつも通り……………!!よし!」


何故か緊張気味の俺。
待ち合わせ場所にピッタリに着いた。


って、来てねーし。
俺が張り切り過ぎただけ!?

いやいや、時間ピッタリに来るのは常識だっ。


しばらくして10分後…


「ごめん淳ちゃん!洋服何着るか迷ってたら遅れちゃった!」


「お前は女子か!!ったく……で、何するわけ?」


「んー…決めてない!」


「威張って言うなよ……はぁ。もーそこら辺の公園で座ろうぜ………」


「そうだね」


何でこんな楽しそうなんだこいつ………
楽しいことなんて何もないよな…



「あっつ…俺水買ってくる………お前は何か欲しいのある?」


「僕も一緒に行くからいいよ」


くそー。
こいつの王子スマイル調子狂うな…………


俺らはそこら辺の自動販売機で飲み物を買い、公園のベンチに座った。


「……………………って、お前近い!もっと離れろ暑苦しい!」


「だってさ、好きな子の近くにいたいじゃん?」


「近すぎなんだよバカヤロー!」


「淳ちゃん、実はね、今日は話があって呼んだんだ。」


さっき何も決めてねぇって言ってたじゃんかよ………


「何?」


俺が聞くと涼太は真剣な顔をする。


─ドキッ─


は?
何だよ今の音…………
何で貴也といるときはこんなんないのにこいつといるとなるんだよ!!



「僕さ、今までずっと淳ちゃんに好き好き言ってたけどさ、ちゃんと付き合ってって言うの忘れてたから、今日言おうと思ってたんだ…………」


なんで涼太の顔を見るだけで、胸がきゅぅっとなるんだろう…………


「淳ちゃん。僕と付き合ってください。」


やっぱり俺………こいつのこと………


「好き…だ…」


「…………………え?」


「だから、付き合ってやるって言ってんの。」


「え、何?ちょ、もーいっかい言ってみて……」


目を丸くして聞いてくる。


「もう知らない。つんぽ。じじぃ。ばか。」


俺がそっぽを向いた瞬間、後ろからフワッと涼太に抱かれた。


「離せバカ。」


「あー可愛い。ホント可愛い。何でそんなに可愛いの?もー僕好きすぎて吐きそうだよ……」


「は!?ちょ、おま、まじで離せ!吐くなら離れてからにしろ!バカヤロー!」


「離して欲しくないくせにー」


「んなわけねーだろ!すぐ離せ、今すぐ離せ!」


「あぁ、淳ちゃん。僕は淳ちゃんのためなら地に這いつくばれr…」


「キモい!!」





っていう具合に、俺らの夏休みは終わっていった。


俺と涼太が付き合ってるという事はきちんと貴也と優、そして母さんに伝えることができたから良かった。





─そして今は2学期。
転校生がうちのクラスに来ると噂になっていた。



「淳おはよ」


優はニコッとしながら俺にそう言う。


「おはよ、何で教室こんなに騒がしいの?」


「それが、転校生来るらしいのよ!かなりの美人さん!」


へー。
だからこんなに騒いでるわけね。



美人、ねぇ。
優見てるから美人のハードル上がるんだよなぁ……


なーんて呑気なこと思ってると担任が入る。


何であいつちょっと嬉しそうな顔してんだよ……

きも。


「えー、今日は転校生が来ている。入ってくれ!」


いつも喋る時より張り切る担任。
その担任の声に合わせて教室に女の子が入って来た。


皆のざわつく声。


『可愛い!』


その声が多かった。


あれ、あの子………どっかで見たような……



「じゃぁ、自己紹介してくれるか?」


コクンと頷くと、その子の細い、でも綺麗な声が教室に響き渡る。


「西崎 加代子(ニシザキ カヨコ)です。よろしくおねがい………」


そう言って言葉を止め、俺の方を見る西崎さん。


え?
何で俺見られてんの?
んん??


「あのっこの前はレストランで助けていただき、ありがとうございましたっ」


そう言い俺に頭を下げる。


「た、助けた…………??………あぁ!!あの時の女の子!?」


「はいっ」


すんげーにこやかだなー。
まじか。
夏休み、バイト先で酔っぱらいのオッサンに絡まれてた女の子だ!!


「なんだ、鬼森と知り合いか!ちょうどいい、鬼森の隣に座りなさい。あと、鬼森、後で西崎に学校案内してやれ」


「はーい。」


美人に挟まれたな………


俺の隣になった西崎さん。
女子が、西崎さんは美人だし、俺は女の子と付き合わないと分かっているからいい、的なことを言っていた。






昼休み、俺は西崎を連れて学校案内をしていた。


「ここが資料室で、隣が図書室。で、そこのかどを曲がったところに、理科室、理科準備室があるからね。だいたいこんなものかな」


「は、はいっありがとうございます」


「じゃぁ教室戻ろうか」


そう言って俺らは廊下を歩き出す。
すると、ほうきをバット、丸めた紙をボール代わりに、廊下でバカが野球をやっていた。


「やべ!」

という声と同時に勢い良く紙のボールが、俺ではなく、その隣にいた西崎さんに飛んでくるのが分かった。


俺は西崎さんをかばうため、咄嗟に彼女を抱きしめ、後ろ向きになる。


バシッという音と共に、頭に痛みが走る。


何だよ、紙だから大丈夫かと思ったら、めっちゃ硬いんですけど!!


「……………ってぇ…」


「げっききき、鬼森………わ、わりぃ」


こいつら………


俺は後を振り返り、すごく冷静に、でも男子二人を睨みつける。


「あのさぁ。……そんな中学生みたいなことやって、人に当たるっていう考えはなかったわけ?俺がいなかったら西崎さんに当たってたんだよ?ホント、能なしだね。」


「わ、悪かったって……」


男子二人は顔を青ざめ、俺にそう言うと去っていった。


「あ……あの……きき、鬼森くんっ」


ん?
あ……………

俺は西崎さんを抱きしめる形になってた。

「ご、ごめん!守ろうとしたらつい………ホント、ごめんね?」


そう西崎さんの顔を覗きこむように言うと、真っ赤になっていることに気づく。



この空気……………どうすりゃいいんだ………
ってか、頭いてぇ……


「き、教室戻ろう」


あははー苦笑いをしながら教室へ向う。




「あ、淳ちゃーん、やっと帰ってきたぁ」

そう言いながら俺の所に寄ってくるのは涼太だった。


「お………おぅ、涼太……久しぶり…」


「ちょっと淳どうしたの!?大丈夫??」


「すっ転んで頭でも打ったのか?」


涼太に抱きつかれながら2人に質問される俺。


「廊下で野球やってた奴らの球が飛んできてさ……紙だから大丈夫だと思ったらめっちゃ硬かった」


笑いながら話すと貴也は爆笑して、優は心配そうな顔をしている。


くっそぉ貴也め…………


「笑ってんじゃねぇ、後で………」


覚えとけよと言おうとすると、グッと腕を引かれた。


「ぁん?涼太、何だよ………」


涼太は無言のまま俺を引っ張っていき、行き着いた先は保健室。


ガラッと扉を開けると、先生は不在だった。



「淳ちゃん、そこ座って」


涼太は不機嫌そうにそう言うと、袋に氷を詰めだした。


「後ろ向いて。」


「お、おぅ…………っっ!冷た………」


「まったくホント、ムカツクよね。」


「いや、むかついてんの俺だし!何でお前がむかついてんだよ………」


「野球廊下でやってたって何?バカじゃん。ホントクソだよね。そいつら後で殴りに行こうかな。僕の淳ちゃんの頭にボールが当たった?ふざけるのもいい加減にしてほしいよね。」


「まぁ、それでもさ、西崎さん守れたからいいよ。」


「あのぅ………」


そう言って、少し引き気味に保健室に入って来たのは西崎さんだった。


「西崎さん、どうしたの??もしかしてどっか怪我してた!?」


「あ、いえ!!鬼森君が心配で……来てしまいました…本当にさっきはごめんなさい」


深々と頭を下げる西崎さん。
俺は西崎さんに近寄り、体を起こさせた。


「あれは西崎さん何にも悪くいんだよ?あそこで野球やってるバカが悪いんだから、謝らないで?それに、ちゃんと守れて良かったよ」


笑ってそう言うと、西崎さんは少し頬を赤らめた。


「レストランの時も今日の廊下でも、助けられっぱなしだったので、何かお礼をさせて頂けませんか?」


お礼って…………2人で出掛けて何か奢るとか?
え、俺の考え過ぎ?
いやぁ、それでも俺女の子に奢られるとか嫌だな。


「いや、いいよいいよ。そんな大したことしてないし。それに、俺こいつかまうのに忙しいからさぁ」


そう言い、俺は涼太を親指で指す。


「あの………そちらの方は………?」


「こんにちは。僕は淳ちゃんのかれ………うっ」


ドスッと鳩尾。
こいつ……今彼氏って言おうとしやがったな……


「こいつは俺の友達かな」


「ちぇっ淳ちゃんつまーんなーい」


「うるさいばか。もー俺このまま保健室でさぼるから戻っていいよ」


「淳ちゃんを置いて戻るわけ無いでしょ?僕も一緒にさぼるよ。」


「ったくしょーがねぇなー。西崎さん、悪いんだけど、教室戻ったら俺が保健室にいること先生に言ってもらっていい?お礼はそれでいいよ」


ここで王子スマイル…………するんだけど、何故か王子スマイルは西崎さんには効かないみたいで、さっきの頬の赤らみはどこかにいっていた。


「わ、分かりました。では、失礼します」


そう言い去っていく。



「はーぁ。絶対あの子淳ちゃんのこと好きだよねー。僕より淳ちゃんのことばっか見てたしさ?」


「何?涼太。お前、女子にモテたいわけ?」


俺はボールが当たった部分に氷を当てながら、涼太に問いかける。


相変わらずこいつは何考えてるかさっぱりわからん。



「モテる彼女を持つのは辛いってこと」


「とか言って、自分だってこの前告白されてたくせに。」


「あれ、淳ちゃん、嫉妬?ヤキモチ??ねぇねぇ淳ちゃん」

「んなわけねーだろ!」