「淳ー、おつかれっ」

体育が終わると優は俺にタオルを渡してくれた。

「え、使っていいのか?優のタオルだろ?」

「女子はほとんど体育って言うより応援だったから汗かいてないのよね」

ふふっと笑って言う優。
やっぱどの角度から見ても美人だなー……

じーっと優を見つめていると優が反応する。

「なぁに??」

「あぁ、いや、別にー。美人だなーって思って見てただけー。」

「なっ………はぁ、貴也に言われたいわよ、その言葉」

「ははっ貴也本気の奴にはそーゆーの言えねえんだよっ許してやって」

「はいはーい」

そう言うと優は女友達と歩いていった。

俺も教室に戻るか…

なんだか今日はやけに暑いな……………………



「………………って、谷、俺体育の後だからすごく暑いの。お願いだから離れてくれない?」

「淳ちゃん、僕の下の名前は?何だっけ?」

「涼太、どけ」

「でもよお淳。お前谷のこと邪魔そうにするわりには結構楽しそうな顔してるよな」

「もういっかいいってみろ?お前の頭かち割るからな」

俺はニッコリと笑いながら、でも貴也を目で睨みつけそう言った。

「そんな事よりさ、夏休み、皆で海に行かない?」

そう言われた瞬間、俺と貴也は固まった。
まぁ、確かにね?
夏と言えば海!海と言えば水着!水着と言えば女!
みたいな?
あるよね?
うん、よくわかってるよ?

でもさ、俺どーする?
まぁ、水着は着れるとしよう。
上に何か羽織れば海パン履いても問題ない……が!
しかし!
泳げねーよ!!


俺は貴也の方をチラッと見た。

「ちょっとぉ、何で2人共黙ってんのよぉ」

「あ、いや、俺は別にいいんだけどよ、淳が…」

こんにゃろー!!
その言い方やめろ!
俺に問題があるみたいだろ!
俺に問題があるのか!!

「せ、せっかくだから2人で行ってこいよーっははは」

「だよな!俺も2人で行きたいなー!!」

「はぁ?嫌よ。」

何で即答!?

「なっ優!お前俺のことそんなに嫌かよ!」

「だって淳がいれば貴也は悪さしないし、他の女にホイホイ付いて行くなんてないでしょ?」

「んだよその言い方!俺のこと信用してないわけ!?」

「別に?ただ、前に女子は皆すきとか言ったの思い出しただけ」

「だー!お前らいい加減にしろ!俺が一緒に行ってやるよ!それで文句ねーな!?」

「淳ちゃん、行くの?」

「あぁ、何か文句あっかよ」

少し切れ気味に適当に流す俺。
すると涼太はニコッと笑って

「じゃぁ僕も行くっ」

あぁ、余計なのまで付いてくるなんて………


「ちょっ、貴也見た?今の淳!」

「あ、あぁ。珍しく声荒げたな」

「おい。何コソコソ話してんだよ。このど変態M野郎」

「ねぇそれ俺のこと!?酷くない!?」

「お前しかいねーだろ。全然酷くない。」


俺と貴也が会話をしていると、涼太の俺を抱く腕に無駄に力が入るのがわかった。


「ぁん?何だよ涼太。もーチャイムなるぞ?」

「淳ちゃん…」

少し罰が悪そうに言い出す涼太。
まるで飼い主にすがってくる犬のように見える。

「ん?」

「………ううん。海、楽しみだね」

何だ?
何か、笑顔がいつもと違う様な………

「あ、あぁ、だな。」






昼。
俺は最近女子の弁当を食べなくなった。
まぁ、必ず俺に群がる女子はもちろん、涼太に群がる女子も加わるから大変なんだよな………

貴也には優がいるから女子は近づけないし、優に近寄る男もいなくなった。


ってことで、今は屋上で食っている。


「あれ?淳、今日は手作りのお弁当なのね?お母さんが作ってくれたの??」

「あ?いや、自分で作った。」

「お前料理上手いもんなー」

「まぁ、能なし貴也君よりはね」

「お前なぁ、俺だって料理ぐらいできるし!!」

「ふーん、あっそ。じゃぁ1つでも店の品になるもの考えてみたら??」

「えっ…………そそそ、それとはまた話が別、だし?」

こういう貴也の反応が面白すぎて俺は笑いそうになってしまう。

「淳ちゃん僕淳ちゃんのお弁当食べたい」

「ほらよ」

俺は弁当のフタに自分のおかずを適当に載せ涼太に渡した。
そして涼太は貴也の使っていた箸を勝手に使い食べ始める。


「なんだ、谷君っ別に貴也のこと嫌いじゃないのね」

クスクス笑いながら言う優。
貴也も笑ってる。
何だろ、このくすぐったい感じ。
こういう雰囲気、嫌いじゃない。

俺も自然と笑ってしまう。


「…………ふっ」

「淳、珍しいな。そんな笑い方するなんて」

物珍しそうに俺を眺めてくる。
何だこいつ。
このマヌケな顔、笑える。


「何?そんなに俺の顔見てるとかっこよすぎて惚れるよ?」

「お前、ふっ。」

そう言うと胸を張る貴也。
そして…


「俺は男でお前は…」

!?
こいつ!

俺はさっそうと水の入ったペットボトルで貴也を殴った。
バコッという鈍い音と共に俺はキッと貴也を睨む。
貴也の顔がどんどん青ざめていくのがわかった。

「ってぇ…………わ、わりぃ」

「何を言ってるの?貴也?」

「いや、別に」

「淳ちゃん、大丈夫?」


ニターっと怪しげな笑みを浮かべて言う涼太。
こいつ、もしかして…………


「何がだよ…わり、俺先戻るわ」

「じゃぁ僕も一緒に…」

「お前じゃなくて貴也来い。ごめんな、優。ちょっとコイツ借りていいか?ストレス発散に」

「いくらでも使ってちょうだいっ」

「何だよその言い方〜」

へらへらっと笑う貴也だけど少し冷や汗が出ている。

俺らは誰もいない空き教室へ向かう。



シーンとしている空き教室。
俺は適当に腰を下ろす。

「貴也」

「は、はぃ…すみませんでした…」

小さくなっている貴也。


「ほんっとに、お前やだ。」

「ごめんてー」

「ってかさ………俺、やばいかも」

「まぁ、俺があんなこと言っちゃったし?優だって結構気になってたっぽいしね?だから悪かったって…」

「そうじゃなくて。涼太のことだよ。」

「谷?何であいつが?」

「あいつ、さっきお前がボロ出しそうになった後、俺にすんげー怪しげな笑みで、大丈夫?って言ってきた。もしかしたら、俺が女だってわかってるんじゃ…」


「んなわけねーだろ?あいつに限って。お前告られたからって自意識過剰になってんじゃねーの?」


ヘラヘラしながら言う貴也。
何か、こいつちょームカツク。

「お前は鈍感ど変態野郎だからわかんねーんだよ」

「俺そんなに鈍感じゃねーよ?」

「ふざけんな死ね」

「なっ!?ひどい!」

「キモいよ?」

もーいいや。
そう思って俺は王子スマイルで言ってやった。




それから、いたって普通に日々は過ぎていった。
テストも無事に終わり、俺が疑っていた涼太も今までどおり、何もないまま俺らは長い長い夏休みに入った。





「夏だー!!」

「海だー!!」

「淳ちゃんだー!!」


最後変な叫び声聞こえたけどそこはスルー。

ってことで、俺らは今、海にキャンプに来ている。
まぁ、俺もそれなりに楽しめてるよ。
女子の黄色い声援に囲まれながら。

ま、俺イケメンだし?
俺の隣にいる涼太もイケメンだからな。

貴也は優がいるから誰も近づかないし、近づけない。


「淳!俺ら泳いでくんな!」

「おーう!楽しめー」

今更だが優は顔も良けりゃスタイルもいいな。
周りの男共がめっちゃ見てるよ。
キモッ…


「淳ちゃーん!」

キラッキラの笑顔で犬のように走ってくるのはもちろん涼太。
俺のためにアイスを買ってきてくれたみたいだ。


「おぉ、涼太。わりーな」

「淳ちゃんのためならば僕は奴隷にだってなるよ」

「頼む。キモいからやめてくれ。」

「はいっバニラ」

俺はアイスを受け取り食べ始める。
するとくすくすと横で笑っている涼太。

「んだよ、気味悪いな…」

「ふふっ淳ちゃん口元にアイスついてるよ」

そう言って優しく俺の口元についたアイスを手で拭う。

「俺はガキじゃねーから自分で取れるっつーの」

「そ?ホントはチューで取ってあげようと思ったんだけど……」

「ゴホッ……」

何言ってんだコイツ…………
ぶん殴った方が良いのかな?
え、何、どうしたらいいんだこれ。
殺してみる?
一旦殺してみるか??

「淳ちゃん心が口に出てるよ」

「お前一回海に沈んでこいよ…」

「あのね、一旦殺してみるか?とか、一回海に沈んでこいよとか。僕は1人しかいないんだから、殺すなら1つの方法にしてよね!」

「そこかよ!お前うざ!きも!うざ!」

「まぁそんな淳ちゃんも好きっ。」

「あーあーあーあー何も聞こえない」

「淳ちゃんにチューしたいけど、今は男の子の格好だからね」

「そうそ、俺は男なんだ……………………………えっ?」

今………何て言った……………?

「どうしたの?淳ちゃん?」

「ごめん、俺今、聞き間違えたみた……」

「聞き間違ってなんかないと思うよ?」

俺の言葉を阻んでそう言う涼太。
やばい。
コイツ…怖い………

「淳ちゃんは、女の子でしょ?」

「………はっ、何言ってんのお前。いい加減にしろよ」

そう言って俺は涼太を睨みつけた。

「そんな顔したって、僕には、はいそうですって言ってるようにしか見えないんだけど?」

もぉ、無理だ…………
隠せない…………


「何で分かったの?」

「淳ちゃん、こんな細っこい体にこの顔つきで男じゃないわけないでしょ?馬鹿なの?」

「お前まじムカツク。」

「まぁ、淳ちゃんが男装してる理由なんてだいたい予想つくけどねー」

「で、何?俺が男装してるって学校中にばらすつもり?別にいいけどさ。俺は男装やめる気ねーし。」


「何言ってんの淳ちゃん?」

「え?」

「僕が淳ちゃん大好きなのにそんなことするわけないでしょ?」

「はぁ!?じゃぁ何が目的なんだよ!」

「んー別に?これと言って何もないよ。
ただ、淳ちゃんが誰かに取られる前に淳ちゃんの傍にいようと思っただけー」

「あーもー、お前といると頭グルグルになる」

「僕が撫でてあげ…ゴフッ」

「黙れ僕っ子ド変態王子。」

「な、殴らなくても……………」


普通の女子ならここは照れたり喜んだりするんだろうな…………
俺はなにもならない……
でも、バラさないって言われて、内心ホッとしてる。
先生にも知ってる人いねーし。
バレたら結構やべーし。


「おーい!じゅ…」

「チッ」

「え、え?何?何で淳きれてんの?」

「何でもねーし」

「淳ちゃん僕のこと大好きすぎるみた…」

「チッ」

「淳ちゃ…」

「チッ」

「じゅ…」

「チッ」

「おめーら何のコントだよ!面白くもなんともねーぞ!」

「うるせー死ね。」

「ねぇ、そろそろバーベキューの支度しない?」

ウキウキの優。
なんて可愛いんだ。
優だけが俺の癒しだな……

って………俺、優に嘘ついてるんだな…
話すべきか、話さないべきか…
うーん…

「淳ちゃん、まだ言わなくても大丈夫だよ」

俺の心を見透かしたように、静かな声で耳元に囁く涼太。
俺、コイツ苦手だ…
嘘をつけない、すべて見透かすような目。
何を考えているか分からない表情。
いつもは優しい笑顔だけど、たまに目が笑っていない時だってある。
すごく人間として怖い…



夜、バーベキューの最中飲み物が欲しいって話なり、俺は貴也を連れて近くの自動販売機まで来ていた。