手をつないだ瞬間を思い出すと、トンカツ専門店の看板も浮かんで来て困った。
しかも晩御飯はカツ丼だった。
「…今日はおとなしいな」
田吾郎は不思議そうに末の娘を見た。
父の発言に、麻央梨は
「だってさ、希望梨今日…」
と言い始めたのだが妹のひと睨みで発言をやめた。
「何だ、何なんだ。今日友達と図書館行ったんだろ?」
田吾郎の的外れな発言に美沙梨が吹き出した。
「おいおい、美沙まで父さんに隠し事か?」
田吾郎は半分平らげたカツ丼を悲しげに見た。
「まぁまぁ…。高校生にも色々あるわよ」
ケイはたくあんをポリポリ噛んだ。
「あ、そうだ!」
たくあんを口に入れたままケイが叫んだ。
「希望梨、今度の土日空いてる?」
「何で?」
伊坂との用事が入るかも…とはまだ言えず。
「ばあちゃんがね、希望梨に会いたがってるの。列車のチケットも送って来たから、久しぶりに田舎行っといで」

…チケットまで用意されてるなら、断れないのではないでしょうか…。