希望梨は地に足が着かない、というのを体感した。
ふわふわしている。

喫茶店でお茶して色々話した。
だいぶ打ち解けた。
特に目的地を決めず、散歩した。
雑貨屋を見たり、隠れ家的な店を発見したりした。
古本屋があって、絶版本を見つける度に見入ってしまった。
チェーン展開している新しい本を買い取る古本屋ではなく、昔ながらの価値ある本を並べている店だ。
「…古い本の香りっていいなぁ」
自分ではとても買えない金額の本を見ながら呟いた。
「確かに…いい香りだよね。今までどんな歴史が刻まれた本なのか、とか色々考えたら奥深いね」
伊坂はうず高く積まれた本の壁を見上げた。
「…うん」

それからまたぶらりと散歩をした。
二人の間には微妙な空間があった。
「…桜井さん」
「はい?」
大きな豚の看板に見とれていた。
トンカツ専門店らしい。

気が付くと、伊坂が希望梨の右手をぎゅっと握っていた。
力強い左手だった。

「これからも…時々会えるかな」
「…うん」
「正式に付き合うって事でいいのかな」
「…うん」


それから、お互いの携帯番号とメアドを交換した。

希望梨の家の近くまで送ってくれて、ついさっき帰って行った。


希望梨はふわふわした足取りで、自宅に入った。