伊坂透は喫茶店の窓際の席にいた。
早く来過ぎたなぁと思いながら腕時計を見る。
9:45A.M.
約束は10時。
今迄付き合った子がいない訳ではない。
中二から付き合って、高校が別々になって自然消滅的に別れた彼女。
高校に入学して、美術の授業で同じ班になって親しくなって付き合った彼女。
半年の付き合いに終わった。
友達でいるべきだったのだ。
アイスコーヒーの氷をストローでもてあそぶ。
カランカランと音がする。
喫茶店の氷って穴が開いてるな…。
なんでだろう?
大量生産する為の機械を使うとどうしても穴が開くとか?
取り留めもない事を考えながら、自分がかなり緊張している事に気付く。
笠倉稔から聞いた「逸話」と、校舎ですれ違って見つめていた桜井希望梨しか知らない。
知らないのに、なぜ惹かれるのか。
いや、知らないから惹かれるのか。
ニワトリが先か、タマゴが先か…。
いや、これはまた違うか。
禅問答みたいだ。
緊張をほぐそうと背伸びをした時、来客を告げるベルが喫茶店に響き渡った。