稔が「勤労青年」している頃、希望梨は洋服をとっかえひっかえしていた。
「ロクな服がないっ!」
ふと、この間映画館に着て行った服が目に入った。
いや、これは着て行けない。
今日が正真正銘の初デートなのだ。

「何ガタガタしてんの…」
隣の部屋から麻央梨が妹の様子を見に来た。
「…嵐のあと?」
希望梨の部屋は凄まじい事になっていた。
「麻央ちゃん〜」
希望梨は涙目になっていた。

「あんたがデートねぇ…」
自分の服を持って来て妹にあてがいながら、つい麻央梨はにやにやした。
「いいでしょ、別に」
りおや涼子ちゃんと出かけるって言えばよかった。
でも女友達と出かけるのに四苦八苦しているなんて、姉は信じないだろう。
正直に言うしかなかった。
「相手、どんな子?」
「…陸上部の人」
「えっ!じゃあ…」
「稔じゃないってば」
姉の発言を予測して反論した。
「スポーツマンなんだね、って言いたかっただけだよん」
麻央梨は希望梨のワンピースの背中のファスナーを上げながら笑った。
希望梨はぷうっと頬を膨らます。
「…で、向こうから言って来たの?」
「…うん」
希望梨が呟くと、麻央梨は妹の髪をいじりだした。
「あんた、髪はどうするつもり?」
「ポニーテールかなんかにしようかと…」
妹の発言に姉は首を横に振る。
「いつもと違うイメージにしなきゃ」
麻央梨はどこからともなくアメリカピンを取り出した。