スリップとは?本を買う時に本から店員が引き抜く短冊である。大低の書店では振り分けるケースを設けていて、ジャンル毎にスリップを分けて入れる。集計すればどの本が何冊売れたかが分かる訳である。出版社によっては、スリップを貯めて郵送すれば奨励金が出る。こんなに売れましたか、ありがとう!という事だ。でも今、パソコンで売り上げを管理している書店が多いだろう。BOOKSケイも例外ではない。
でも、希望梨はスリップの集計をして何が何冊売れたか見るのが好きだ。作家がスリップに店員さん注文してくれてありがとうなんて書いて(むろん印刷で)あったりする。スリップには出版社、作者、価格、バーコード…本の情報が詰まっている。
人の気配を感じて顔を上げると40代位のサラリーマンが立っていた。今人気の時代小説の文庫本がレジの前に置かれた。
「カバーお付けしましょうか?」
希望梨がそう聞くとサラリーマンは軽く頷いた。サッとバーコードをスキャンして価格を告げた。客から代金を財布から出している間に、ブックカバーをかける。文庫本サイズにあらかじめ折られたものだ。母がデザインした店名のロゴが印刷されたシンプルなもので、時間がある時に文庫本サイズ、新書(コミック)サイズに折っておく。元々は包装紙のような状態なのだ。文芸書やそれ以上の大きさの本には、また違う(つまり大きい)「包装」紙を使う。釣銭を渡して、カバーをかけた文庫本にパチンと輪ゴムをかける。はい、おしまい。サラリーマンはありがとうとつぶやいて店を出て行った。ありがとうございました、またお越しくださいませという希望梨の声が後を追う。お買い上げのサラリーマンの後を追うように立ち読みしていた他の客も店を後にした。
店内に一人になり、希望梨は一息ついた。ここで、希望梨の特徴を紹介しよう。肩まで伸びた髪。その毛先はクルッとまるまっている。くせ毛なのである。生まれつきなのに、何回も風紀指導の先生に呼び出された。パーマなんてかけてません!何度もそう言っては幼い頃の写真を見せてほら、赤ちゃんの時もクルッってなってますからと言った。一応納得してくれるのだが、風紀の先生が変わるとまた呼び出される。いたちごっこに腹が立ち、ストレートパーマをかけた事もある。さらさらヘアになった途端、やっぱりパーマかけたなと叱られた。