「では、始めて下さい」
試験官の無機質な声にも、不思議とリラックス出来た。
稔が何列か前で座っている。
…まだまだピカピカの制服で。
…サイズが合わなくて無理やり着てる制服で。
問題を解きながら、何度も吹き出しそうになった。
シーンと張り詰めた空気の中なのに。

英語のテスト。
リスニングは嫌い。
「メモをとっても構いません」
その台詞が流れる度、そんな余裕ないわいとキリキリする。
メモをとっていたら、次のを聞き逃すからだ。
トムとジェニーはある日買い物に出掛けました。
途中公園に寄り、犬を散歩させているジョージとばったり会いました。
三人はベンチに座って雑談する事にしました。
トムには二つ年上のお姉さん、アニーがいて…。
↑※これは希望梨達には英語で聞こえています
のんびり訳しながら聞いていると「Question1」と不意打ちだったりする。
お姉さんがいるのは誰ですか。
ジョージはスーパーでオレンジと何を買いましたか。
トムとジェニーが出掛けたのは何曜日ですか。
ジョージが二人と別れて帰宅したのは何時ですか。

…えっと、トムとジェニーが最初二人で…とか考えていると次の設問に行ってしまう。
イライラしながらも、新品でキツキツの後ろ姿を見るとリラックス出来た。

希望梨の鞄の奥には、小さな巾着袋に入れたボタンがあった。