そんなの関係ねぇ。
…と言いたくても、携帯の画面にははっきり映っていた。
「な、な、な、な!」
稔がそう言うと、悪友の一人が
「切りよく七回言えよ」
と馬鹿笑いした。
「……」
昨日のあの出来事は夢のような気がしていた。
しかし、友人の携帯にはその瞬間がはっきり映っている。
「これ、待ち受けにしよっかな」
「美輪さんのみたいにご利益あるかも?」
友人…やっぱり悪友か…はどんどん悪ノリしていく。
「俺はオーラをだしてないぞ!」
稔の発言に一同シーンとなった。
「…というか、多分かなりの人数がこの写メ見てるぞ」
「ま、動画じゃなかったのが不幸中の幸いか」
「いや、笠倉の長い長い片思いが実ったんだから不幸じゃねえだろ」
「幸福中の幸福?」
稔の席の周りには友人が数人立ったり、椅子に座って稔を囲んでいる。
そして好き勝手な発言をしている。
「いや、これは元々伊坂が桜井を誘ったのであってな、俺はピンチヒッターで…」
稔は事情を説明しようとしたのだが、
「逆転サヨナラホームラーン!」
…話がますます大きくなった。
延々と悪友達の話は続き、稔はウンザリして
「ちょっと外の空気吸ってくる」
と言って席を立った。
そして教室のドアを開くと…
二千円札を握りしめた桜井希望梨その人が立っていたのである。

「お釣りある?」
希望梨がそう言った瞬間、二人は固まった。
言った本人である希望梨も二千円札を見つめて呆然としている。
釣りは要らないよっ!
…と言えば良かった…という問題ではない。
「…釣り」
「…パンダの…」
「あぁ…あれは別に俺が勝手に…」
「とにかく渡しとく」
希望梨は二千円札を稔に渡した。
いや、押し付けた。
「私が操作してたらそれ位かかってたしね、うんうん」
何がうんうんなんだ…自分で突っ込みながら稔から遠ざかった。
「桜井…!」
稔はそう言って振り向いたが、希望梨は振り返らず、悪友達の好奇の視線だけ帰ってきた。
えっと…今日は財布にいくら入れてたっけ?
学食で食べるから小銭あったよな…。
お札あったっけ?
−じゃなくて!
二千円札返すべし!