「ケイさんかい？」
「はい…？」
「玄だけどよ」
「あら、こんばんは。お誕生日おめでとうございます。宴会盛り上がってます？」
「盛り上がり過ぎてよ、旦那さんが酔い潰れちまって…」
「えっ！」
タゴちゃんがそんなに飲むなんて！？
「酔い潰れたっつってもビールコップに二杯程飲んだだけなんだよ。人に酔ったって感じかね。今日タゴさん主役だったからねぇ」
「すぐ迎えに行きます」
商店街の集まりで何で田吾郎が主役に？
「いやいや、今頭に氷当てて冷やしてっから、もう少し休ませてから俺が送るから。遅くなるかもしんねぇから連絡いれとこうと思ってね」
「まぁ…すみません」
電話なのに、思わずケイは頭を下げた。
「いやいや、タゴさんにはこれから色々頑張ってもらうからね、気にしないでな。じゃ」
玄さんが電話を切った。
ツーツーツー…
「…？」
田吾郎は一体何を引き受けたのだろうか。

「ただいま〜。今帰ったよ」
希望梨の明るい声がした。
希望梨の後ろにミヨが姿を隠すように立っている。
「ミヨ…！」
創介は箸を置いて立ち上がった。
「お父さん…」
ミヨは創介の顔を見ず、床を見つめていた。
「心配したんだよ。それに急にケイの所に来たらいくら娘でも迷惑じゃないか」
「父さん、私は迷惑だなんて…」
ケイが口を挟んだが、
「そりゃお父さんは千世子さんと出かけるのに忙しいんでしょうよ！」
ミヨがキッとなって顔を上げた。
「チヨコさん…？」
ケイが困惑した。
「老人会の友達なんだよ。ミヨが誤解して…」
「友達と手をつなぐんですか？」
ミヨが反論した。
「千世子さんが足を痛めてるのを知ってるだろう！あの時は転びそうだったから咄嗟に手を差し出したんだ」
「でも…！」


「あら、麻央おかえり」
シャワーでさっぱりして髪の毛をタオルで乾かしながら美沙梨は妹に話しかけた。
「なんかじいちゃん達もめてるね」
姉と入れ代わりに脱衣所へ入りながら麻央梨はぼやいた。
「ばあちゃんの勘違いだと思うんだけどね…」
「一生独身が楽かもね」
麻央梨は笑いながら脱衣所のカーテンを引いた。
「……」
美沙梨は髪を乾かしながら妹の言動を反芻した。