「晩には父さんが来るからね」
ケイの声で、規則正しかった包丁の音が止まった。
「あんた、私を売ったのね!?」
ミヨがわざとらしく言って泣き声を(やはりわざとらしく)出した。
「人聞きが悪いな…。母さん、ネギちゃんと刻んで!」
ケイはいつになく厳しい口調になってしまった。
「歳取るのはヤだねぇ…」
ミヨの包丁の音が寂しく響く。
「父さんときちんと話し合いしなきゃ」
「財産分与について?」
ミヨが子供のように口を尖らせる。
「大袈裟な!」
その頃、田吾郎は書店の店番をしていた。
…といっても、ノートパソコンをカチャカチャやりながら。お客さんが入って来たら、手を止めるのだが。今回の旅行記を締切迄にまとめなくては。ノートに殴り書きしたもの、カメラに収めて現像していない写真、ラフなスケッチ。
2階が騒がしい感じなので気になる。義母とケイはもめているようだ。
今回はどんな表紙にしようか。いつものイラストレーターに描いてもらうか。
それとも自分のスケッチを使うか。
写真をコラージュしても面白いな…。
作家の思考は色んな方角へ飛んでいく。
「伊坂君が希望梨を好きだったとはねぇ」
りおがうーんと唸る。
「映画に誘われただけじゃん」
そう言いつつも希望梨はチケットをじっくり見てしまう。
「でも好きでもない人を誘わないでしょう?」
涼子はおっとりした口調でそう言った。「……」
希望梨は黙り込んだ。今迄挨拶位はした事あったかなぁ。でも気にして見た事ないなぁ…。
「あっさり了承しちゃって。伊坂君地に足ついてない感じだったよ」
りおはじゃあ部活行くから、と二人から遠ざかった。
「えっ、私思わせぶりな行動しちゃったのかな?ロクに口聞いた事ないのに軽率かな?」
希望梨は不安になって涼子の顔を見た。
「うーん…。でも誰かがアクション起こさないと恋愛は始まらないしね」
涼子がそう言うと、
「そっか…」
と希望梨はうなづいたのだが
「いや、だから、私伊坂君の事よく知らなくて!」
と慌てた。
「これから知ればいいんじゃない?」
涼子は優しくそう言うと、鞄を抱えて希望梨にそろそろ帰ろっか、と促した。
自転車置き場に向かいながら、涼子はある決意をした。
希望梨の自転車の鍵がカチャンとおりた時、決意が固まった。
ケイの声で、規則正しかった包丁の音が止まった。
「あんた、私を売ったのね!?」
ミヨがわざとらしく言って泣き声を(やはりわざとらしく)出した。
「人聞きが悪いな…。母さん、ネギちゃんと刻んで!」
ケイはいつになく厳しい口調になってしまった。
「歳取るのはヤだねぇ…」
ミヨの包丁の音が寂しく響く。
「父さんときちんと話し合いしなきゃ」
「財産分与について?」
ミヨが子供のように口を尖らせる。
「大袈裟な!」
その頃、田吾郎は書店の店番をしていた。
…といっても、ノートパソコンをカチャカチャやりながら。お客さんが入って来たら、手を止めるのだが。今回の旅行記を締切迄にまとめなくては。ノートに殴り書きしたもの、カメラに収めて現像していない写真、ラフなスケッチ。
2階が騒がしい感じなので気になる。義母とケイはもめているようだ。
今回はどんな表紙にしようか。いつものイラストレーターに描いてもらうか。
それとも自分のスケッチを使うか。
写真をコラージュしても面白いな…。
作家の思考は色んな方角へ飛んでいく。
「伊坂君が希望梨を好きだったとはねぇ」
りおがうーんと唸る。
「映画に誘われただけじゃん」
そう言いつつも希望梨はチケットをじっくり見てしまう。
「でも好きでもない人を誘わないでしょう?」
涼子はおっとりした口調でそう言った。「……」
希望梨は黙り込んだ。今迄挨拶位はした事あったかなぁ。でも気にして見た事ないなぁ…。
「あっさり了承しちゃって。伊坂君地に足ついてない感じだったよ」
りおはじゃあ部活行くから、と二人から遠ざかった。
「えっ、私思わせぶりな行動しちゃったのかな?ロクに口聞いた事ないのに軽率かな?」
希望梨は不安になって涼子の顔を見た。
「うーん…。でも誰かがアクション起こさないと恋愛は始まらないしね」
涼子がそう言うと、
「そっか…」
と希望梨はうなづいたのだが
「いや、だから、私伊坂君の事よく知らなくて!」
と慌てた。
「これから知ればいいんじゃない?」
涼子は優しくそう言うと、鞄を抱えて希望梨にそろそろ帰ろっか、と促した。
自転車置き場に向かいながら、涼子はある決意をした。
希望梨の自転車の鍵がカチャンとおりた時、決意が固まった。
