「あんた器量よしなんだからさ、お嫁に行けばいいんだよ。花嫁姿見たいねぇ。えっと、なんだっけね、6月の花嫁さんは…」
ミヨは美沙梨の部屋のベッドに腰掛けていた。
「ジューンブライド?」
美沙梨はか細い声で言う。
「そうそう。再来月、いや急過ぎるから来年かね…。今からでも式場空いてるかね?」
「ばあちゃん、それ以前に私今お付き合いしてる人いないから」
美沙梨はベッドの側に置かれたビーズクッションに座っていた。自分の部屋なのに居心地が悪い。
「あれまっ!そうなの?」
ミヨは大袈裟にびっくりしたカオをした。美沙梨はアルコールでぼんやりした頭を縦に振った。
「そうだ!ばあちゃんの友達の孫に銀行員してる人がいて…」
「見合いする気はないよ」
祖母が思い立ったが吉日な性格なのを痛い程知っているからすぐ拒絶した。
「25、6だからちょうどいい年だと思うけど…。ハンサムだよ」
「せっかくだけど、私今結婚は考えてないから。出版関係の仕事に就きたいの。今日の会社がダメでもまだ出版社は沢山あるし…」
「裕ちゃんみたいなハンサムなんだよ」
ミヨは未練がましく言う。裕ちゃんとは言わずもがな、石原裕次郎の事である。
「ばあちゃん、じいちゃんの事も裕ちゃんに似てるって言うじゃない」
美沙梨は祖母が来た理由を知らず、何も悪気はない。しかし、祖父の話題になった途端ミヨが号泣し始めた。
「えっ、ばあちゃん、どうしたの?」
美沙梨は動揺しながらミヨにティッシュを箱ごと渡した。ミヨはティッシュを受け取り、ただただ泣く。
「ごめん、ばあちゃん、じいちゃんが裕次郎さんに似てないとかそういう意味じゃなくて…」
祖父は厳格で凛々しいタイプだが、石原裕次郎のような雰囲気ではない。
「えっと…誰かな…。宇津井健さんかな…。いや、北大路欣也さんかな?『華麗なる一族』見た時よくじいちゃん思い出して…」
その言葉にミヨは一瞬泣き止み、そしてまた更に号泣し始めた。『華麗なる一族』で北大路欣也が演じたのは、本妻と愛人を同居させる人物だったからである。美沙梨は訳が分からず、知らず知らずに祖母を泣かせてしまっていた。ばあちゃんが私の相談に乗ってくれるはずなのに。ミヨの泣き声を聞きながら美沙梨は天井を見上げた。