「涼子ちゃんはやっぱり進学するんでしょう?」
放課後、希望梨達は図書館にいた。希望梨は椅子に逆向きに座り、近くの棚で本を探す涼子に声をかけた。
「うん、保育科のある大学に進学するつもり」
頬をうっすら染めて微笑む。
「保育士か、涼子にピッタリだよね」
希望梨の隣に座ってノートに落書きしながらりみが自分の台詞にうなずいた。
「りみはどうするの?」
希望梨はもう一人の親友に視線を移した。
「う〜ん…。専門学校に行って資格取りたいと思ってる」
落書きの手を止めて、りみは照れ臭そうに二人を見た。
「へえぇっ…!」
希望梨はりみはまだ進路を決めていないと思っていた。
「資格っていうと薬剤師とか?調理師?栄養士?」
涼子が本棚から離れてりみの側に行った。
「いや、まだこれ、ってのには絞れてないんだけど…」
りみと涼子が熱心に進路の会話を始めたが、希望梨はただ聞いていた。
私、何になりたいとかまだきちんと考えてないや…。
図書館を見回すと、皆生き生きして見えた。新入生は高校の広い図書館に感動している。二年生は、課題の調べ物をしている。三年生は、進路に向けて前進している。皆が皆自分の未来を決断している訳ではない。
でも、皆に自分が置いてけぼりにされている気がした。

「……」
稔はグランドから図書館を見ていた。正確には、図書館の窓際にいる希望梨を。
夕日が当たって輝いていた。
「笠倉ぁ、まだ一周残ってるぞ!」
指導員の声に我に帰り、走り始めた。
「すんませ〜ん」
おどけて謝る稔に指導員は苦笑した。
「引退近いからって油断するなよ。今の記録なら大学だって推薦で行けるからな!」
背中で聞いた指導員の声に素直には喜べなかった。俺には走るしかないんだろうか。