自分の録音された声に吹き出しそうになる。
ピーッ…
さて、誰からかしら。出版社かな?
考えながらも目前の客の差し出した図書カードを受け取り、機械に通した。
『もしもし、ケイいないのかい?この録音するの嫌いだよ。3分以内に話せとか言うしさ。色々話したいけど途中で切れたりするし。生身の人間と話したいよ。…あら、テレカの残りが少ないね…。今駅に着いたから、駅前の喫茶店で待ってるよ。これ聞いたら迎えに来とくれ。お父さんたらさ、ひど…』
ツーツーツー
テレカが足りなくなったらしい。
ケイは客に図書カードの残高を知らせながら返して、商品も渡して店を後にするのを見送った。独りになった。
「母さんは何で来る前に連絡くれないの?駅に着いてから連絡するってどーゆーつもり!?」
ケイは叫んで頭を抱えた。
ケイの両親は、70代半ばで健在である。田吾郎の両親は他界しているため、希望梨達にとっては唯一の祖父母である。伝言からすると、喧嘩をしてケイの母−祖母は家を飛び出して来たらしい。
「ただいま!」
麻央梨がそこへ帰宅してきた。
「今日休講ばっかりでさ…」
と話す娘にケイは鍵束を手渡した。
「駅前の喫茶店にばあちゃん来てるから、迎えに行ってくれる?」
麻央梨が握らされたのは車のキーだった。

「…で、御社に魅力を感じたんです。ぜひ、ここで働かせて頂きたいと思いました」
言い切って、美沙梨は少し安堵した。五人も面接官がいて、パイプイスに独り座らされた自分は居心地が悪い。『二十四の瞳』ならぬ゛十の瞳″が並んでこちらを見ているのだ。
「桜井さん、今迄アルバイトの経験は?」
面接官の中で1番年配と思われる男性が尋ねた。
「はい、実は実家が書店を営んでおりまして、その手伝いをしています。最近は忙しくなって末の妹に任せきりであまり手伝えないんですが…」
「…というと、家業以外はアルバイトした事がないんだね?」
ボールペンを指先でもてあそびながら同じ面接官が言った。
「え、えぇ…」
どうしよう。家業の手伝いのアルバイトしかした事ないなんてまずかった?

「ケイはどうしたの」
麻央梨を見た第一声がこれだった。
「ばぁちゃん、久しぶりに会う孫にご挨拶だね」
麻央梨は苦笑して祖母の向かいに座った。喫茶店は空いていた。