希望梨の頬が赤く染まった。
「君は笠倉君だね、教えてくれてありがとう」
しかしその言葉は稔には届いていなかった。先生に名前を呼ばれただけで、何嬉しそうにしてんだ。
どこからともなく、笠倉と桜井ってやっぱ付き合ってるんだぜという声がした。桜井さんの気持ちは知らないけど、笠倉君って絶対桜井さんの事好きよね。
起立したままの稔に座るよううながし、噂話はやめなさいと三上先生が言った時。
「古い付き合いだからコイツが名前の読まれ方で苦労してるの知ってるから」そう言って希望梨を指差し、「それで反射的に答えただけで」
稔は自分の口が勝手に喋るような気がした。希望梨の顔が歪み始めるのが分かった。
「髪が長いから女だって分かるだけのやつの事なんか好きじゃない」
シーン…
誰も何も言わず、何の音もしない。
あぁ、何言ってんだ俺は。
三上先生が沈黙を破り「笠倉君、そんな言い方は…」仲裁しようとしたのだが希望梨が立ち上がり、
「先生気にしないで下さい。名前の事は慣れてますし。私も『笠倉』君の事は嫌いですからお互い様ですから」そう言ってすぐ着席した。
あいつ、苗字で呼びやがった。いつも稔稔って呼ぶくせに。しまった、怒らせた…。覆水盆にかえらず。
先生がその場をとりなし、朝のHRなので連絡事項を何点か話した。そして、一時限目がちょうど英語だったのでそのまま授業になった。
いつ着席したか覚えていない。無意識に座ったのだろう。憎たらしいほど流暢な英語が流れて来ても稔の耳を素通りした。稔は自分の気持ちを確信したが、自分の言動がそれを台なしにした事も身に染みて感じていた。