還暦前の人をおじいちゃん先生と呼ぶのは酷かも知れない。でもティーンエージャーからしたら、おじいちゃんにしか見えない。上品な紳士風ならおじ様?
しかし、希望梨達の前に立つその人はおじいちゃん先生ではなく、おじ様でもなかった。上品そうな人ではあるが。
「皆おはよう。前田先生が体調を崩されて…」
前田先生とはおじいちゃん先生の事。
「僕はまだ講師の資格しかないんだがピンチヒッターという訳で…」
この人をドラマで演じるなら誰だろう。谷原章介さんかな。優しそうな雰囲気が似てる。でも大学出たばっかりって感じだからだいぶ若いよね。4つ5つ私達より年上なだけかな。
「とにかく、前田先生が2、3か月入院なさるのでその間だけ君達の担任代理という事で…」
背が高いなぁ。180はあるよね。
「僕も英語の担当なので白羽の矢が立ったんだと思うが…」
海外旅行行く時きっと頼りになるなぁ。行く予定ないけど。
「あ、名前行ってなかったね。三上準一(みかみじゅんいち)といいます」
三上希望梨…画数いいかな。ゴロはいい気がするんだけど。
希望梨がそんな事を考えている時、他の女子も似たような事を考えていただろう。稔は三上「先生」には特に興味は持たなかった。英語は好きじゃないし。どうせ大学に進学するつもりはないから、卒業出来る成績さえ取ればいい。
1番後ろの席の稔は、何とはなしに希望梨の方を見た。どうせ窓からグランドを見ているのだろう−そう思った。しかし、希望梨は真っ直ぐ三上先生の方を見ていた。
何とも言えない感情が込み上げる。この感情を自分の中で認めた訳じゃない。
他の女子が三上先生にどんな眼差しを向けようと何とも思わない。でも、希望梨の表情は気に入らない。シャーペンをクルクル回して気を紛らわそうとした。
かえってイライラしただけだった。
この感情はいつから自分の中に芽生えたのだろう。
「…さんだね。で、次が坂本繭香さん…」
いつの間にか三上先生が生徒の名前を読み上げていた。顔と名前を照らし合わせる訳か。
「で、次が桜井…えっと…」
「ユメリです」
気がつくと、本人ではなく稔が答えていた。挙手もせず立ち上がった稔を振り返って希望梨が不可思議な表情で見つめていた。
感謝でもなく、怒りでもなく…強いていうなら戸惑いの表情か。
「桜井希望梨さん…ユメリさんか」