稔は言いたい事だけ言って(雑誌に見入っている麻央梨を避けながら)店を後にした。
ふと、稔が大学進学しない事をにおわせていた事を思い出した。
「私…教科書の角で稔の人生変えちゃったワケ?」
思わず独りごちたのを麻央梨は聞き逃さなかった。
「何、何、やっぱりあんたたち隠れて付き合ってんの?」
「…麻央ちゃん、そのうちゴシップでつぶされるよ」
「私セレブになれるかも♪」
「……」
「桜井姉妹ってのもありかな?アメリカのヒルトン姉妹とか、日本なら叶姉妹よね」
麻央梨はやはり希望梨と同じく顔立ちがはっきりしている。短大の2回生。妹より背が高く、170ジャストある。今はピンヒールを履いているから更に巨大だ。二週間に一度は美容院に行き、靴屋でのバイト代をつぎ込んでいる。化粧はバッチリで、いかにも今時の女子大生だ。
「私にとっての『ギルバート』はどこにいるのかしらね」
「えっ?」
一瞬姉が何を言っているのか分からず、問いかけようとした時来客を伝えるチャイムがなった。正真正銘の客だった。
「ただいま〜」
稔は帰宅して、靴を脱ごうとしてブランド物の革靴が綺麗に玄関先に並べてあるのに気がついた。
またあいつか…?
警戒しながら自宅へ上がる。全国展開している見慣れたロゴの車を今日は見なかった。
今日は電車で来たのか、いや、タクシーか…。
そんな事を考えながら居間に近づくと、父の声がした。
「ひいじいさんが始めた商売でね、代々引き継いで来たんですわ…。うちには3人息子がいますからね、後継ぎには困りませんし」
「笠倉さん、失礼を承知で言いますが今酒屋さんの経営ってのは楽じゃないでしょう」
聞き覚えのある男の声。
「山中さん、たしかに楽じゃありませんよ。以前はあちこちに酒屋がありましたからしのぎあいでしたよ。今は廃業したり商売変えしたりして、この近辺で酒屋してるのはうち位です。今迄同業者がライバルだったけど、ライバルの相手が変わっただけです」
母の声はうわずっている。
「奥さん、今はスーパーやチェーン展開してる大手の酒屋で皆お酒買う時代ですよ。コンビニにしたって、酒を販売できるじゃないですが。この商店街には競合するコンビニがないんです。今がチャンスなんです」
男は両親を丸め込もうとしている。
「俺が継ぐんだから、あんた帰ってくれ!」
ふと、稔が大学進学しない事をにおわせていた事を思い出した。
「私…教科書の角で稔の人生変えちゃったワケ?」
思わず独りごちたのを麻央梨は聞き逃さなかった。
「何、何、やっぱりあんたたち隠れて付き合ってんの?」
「…麻央ちゃん、そのうちゴシップでつぶされるよ」
「私セレブになれるかも♪」
「……」
「桜井姉妹ってのもありかな?アメリカのヒルトン姉妹とか、日本なら叶姉妹よね」
麻央梨はやはり希望梨と同じく顔立ちがはっきりしている。短大の2回生。妹より背が高く、170ジャストある。今はピンヒールを履いているから更に巨大だ。二週間に一度は美容院に行き、靴屋でのバイト代をつぎ込んでいる。化粧はバッチリで、いかにも今時の女子大生だ。
「私にとっての『ギルバート』はどこにいるのかしらね」
「えっ?」
一瞬姉が何を言っているのか分からず、問いかけようとした時来客を伝えるチャイムがなった。正真正銘の客だった。
「ただいま〜」
稔は帰宅して、靴を脱ごうとしてブランド物の革靴が綺麗に玄関先に並べてあるのに気がついた。
またあいつか…?
警戒しながら自宅へ上がる。全国展開している見慣れたロゴの車を今日は見なかった。
今日は電車で来たのか、いや、タクシーか…。
そんな事を考えながら居間に近づくと、父の声がした。
「ひいじいさんが始めた商売でね、代々引き継いで来たんですわ…。うちには3人息子がいますからね、後継ぎには困りませんし」
「笠倉さん、失礼を承知で言いますが今酒屋さんの経営ってのは楽じゃないでしょう」
聞き覚えのある男の声。
「山中さん、たしかに楽じゃありませんよ。以前はあちこちに酒屋がありましたからしのぎあいでしたよ。今は廃業したり商売変えしたりして、この近辺で酒屋してるのはうち位です。今迄同業者がライバルだったけど、ライバルの相手が変わっただけです」
母の声はうわずっている。
「奥さん、今はスーパーやチェーン展開してる大手の酒屋で皆お酒買う時代ですよ。コンビニにしたって、酒を販売できるじゃないですが。この商店街には競合するコンビニがないんです。今がチャンスなんです」
男は両親を丸め込もうとしている。
「俺が継ぐんだから、あんた帰ってくれ!」
