「いらっしゃい…」そこまで言って入って来た人物に気付く。
「麻央姉ちゃん、店から入ったら紛らわしいってば」
入って来たのは合コンの為に全身バッチリの次姉の麻央梨だった。希望梨程ではないものの、彼女にも名前で悩んだ時期がある。だから、大低「麻央」で通している。ジュンコちゃんがジュンちゃんて呼ばれるのと同じよ、とか言って。
「あらっ!稔ってば来てたの〜!」
「……」
稔は昔から麻央梨が苦手で、今硬直している。希望梨はその様子をひそかに愉しんでいる。
「やっぱり稔がカワイイ〜♪今日のメンバー散々だったの」
上目使いに見る麻央梨にゾクッとしながら稔はそうですかとだけつぶやいた。
「悟(さとる)ちゃんと翔(かける)ちゃんもカワイイんだけど、やっぱり稔が1番いい♪」
お気づきとは思うが悟と翔は稔の弟である。麻央梨が稔に抱きついた。稔は失神しそうである。
「ちょっと、麻央ちゃんっ!ここお店なんだからやめてよ」
さすがに希望梨が引き離し…いや引きはがした。
「今誰もお客さんいないじゃない」
「いつ入ってくるか分からないでしょ。奥さん、桜井さんとこの娘さんがね…とかって噂が広まるんだから」
そう、転入二日目に全校児童に桜井希望梨の名前が轟き、きぼうのない子と呼ばれた暗雲の小学生時代のように。
「その方がいいかも♪ね、稔私年上だけどいいでしょ?年上ったって二つだけだし」
「そうっすか…」
稔はよく考えず相槌を打つ。希望梨は、姉の様子を見て本当に稔の事が好きなんだろうかと考えた。私が生まれて、女の子ばっかりだったから弟が良かったなとつぶやく事が少なからずあった。稔は妹と同級生なんだから、弟のような存在として可愛がっているだけか。
「あ〜、徹平君表紙の本が出てる♪」
麻央梨が稔から離れて雑誌ラックへと歩いて行く。
「はあぁ〜」
稔は全力疾走したかのような疲れを見せる。
「あんた麻央ちゃん苦手だね〜」
離れた所にいる姉を見ながら希望梨はからかった。
「何が気に入られたんだか…」
「さぁ…弟欲しがってたからかなぁ?」
「分かった!」
稔が急に言うので希望梨はビクッとした。
「麻央さん小池徹平のファンなんだろ?」
「あぁ、そうだね」
「俺どことなく徹平君に似てるから…!」
「……。鏡見た事ある?」
「そうか、納得〜!!じゃ、またな」