何度となく稔と噂になった事はある。でも違うものは違う。
「あ、しまった」
希望梨はレジ打ちした手元を見つめた。ツケなんだからレジを通さずに価格だけノートにつければ良かったのだ。
「あ、レジ通してやんの」
「今時ツケで買う人少ないんだから」
そう言いながら、レジのデータを消去しようとするがうまくいかない。
「…いいよ、今日の分は払うよ」
稔は財布を取り出した。ありがと、とつぶやいてからお金あるなら最初から払ってよ、と言いたくなった。
「二千円冊…貴重だから使いたくなかったんだよね」
ピシッとしたピン札の二千円札。使い込んだよれよれの二千円札って見た事ないな…などとふと考える。
「二千円札ってレアな感じがしてさ、使うの勿体なくて」
銀行に行けばいくらでも両替してくれるっつーの。稔から受け取ったピン札をレジのドロアー(引き出し)の奥にしまう。
「えっ、何で奥にしまうんだ?」
稔は釣銭を受け取りながら不思議そうに聞いた。
「だって二千円札をお釣りに使わないでしょ。皆嫌がるもん」
自販機など未対応の物が多い為か、お釣り二千円札を渡すと千円に崩してと言われる事が多い。
「稔んちのお店でもそうじゃない?万券(一万円札)と同じ扱いにするでしょ」
つまり、お釣りとして出す事はないのですぐ金庫直行のお札なのだ。
「そんなだから二千円札普及しないんだよな〜。平成おじさんが可哀相だ」
稔のいう平成おじさんとは昭和から平成へ移り変わる時、額縁を掲げて「新しい元号は平成であります」と言った、今は亡き小渕元首相の事である。二千円札は小渕さんの考案したものである。
「えっ、じゃあ稔んちは二千円札お釣りに使うの?」
「父さんがわざわざ用意してる。お客さんが久しぶりに見る〜って喜んだりしてるけど」
新鮮に映るんだろうか。二千円札を毎日見るのはこの辺りでは笠倉家しかないかも。
「父さんがさ、早く酒屋の仕事覚えろってうるさくてさ」
稔は柄にもなく溜め息をついた。笠倉家は三人兄弟で、稔が長男である。
「俺さ、お前が越して来るまでは神童って呼ばれてたんだぞ」
「はぁ?」
「忘れもしない小2の初日…。教科書で頭叩かれてからだよ、成績落ちたのは」
「私小学生の間ずっと希望のない子って呼ばれたんだからねっ!」
希望梨とてあの日の事は忌まわしい記憶である。
「あ、しまった」
希望梨はレジ打ちした手元を見つめた。ツケなんだからレジを通さずに価格だけノートにつければ良かったのだ。
「あ、レジ通してやんの」
「今時ツケで買う人少ないんだから」
そう言いながら、レジのデータを消去しようとするがうまくいかない。
「…いいよ、今日の分は払うよ」
稔は財布を取り出した。ありがと、とつぶやいてからお金あるなら最初から払ってよ、と言いたくなった。
「二千円冊…貴重だから使いたくなかったんだよね」
ピシッとしたピン札の二千円札。使い込んだよれよれの二千円札って見た事ないな…などとふと考える。
「二千円札ってレアな感じがしてさ、使うの勿体なくて」
銀行に行けばいくらでも両替してくれるっつーの。稔から受け取ったピン札をレジのドロアー(引き出し)の奥にしまう。
「えっ、何で奥にしまうんだ?」
稔は釣銭を受け取りながら不思議そうに聞いた。
「だって二千円札をお釣りに使わないでしょ。皆嫌がるもん」
自販機など未対応の物が多い為か、お釣り二千円札を渡すと千円に崩してと言われる事が多い。
「稔んちのお店でもそうじゃない?万券(一万円札)と同じ扱いにするでしょ」
つまり、お釣りとして出す事はないのですぐ金庫直行のお札なのだ。
「そんなだから二千円札普及しないんだよな〜。平成おじさんが可哀相だ」
稔のいう平成おじさんとは昭和から平成へ移り変わる時、額縁を掲げて「新しい元号は平成であります」と言った、今は亡き小渕元首相の事である。二千円札は小渕さんの考案したものである。
「えっ、じゃあ稔んちは二千円札お釣りに使うの?」
「父さんがわざわざ用意してる。お客さんが久しぶりに見る〜って喜んだりしてるけど」
新鮮に映るんだろうか。二千円札を毎日見るのはこの辺りでは笠倉家しかないかも。
「父さんがさ、早く酒屋の仕事覚えろってうるさくてさ」
稔は柄にもなく溜め息をついた。笠倉家は三人兄弟で、稔が長男である。
「俺さ、お前が越して来るまでは神童って呼ばれてたんだぞ」
「はぁ?」
「忘れもしない小2の初日…。教科書で頭叩かれてからだよ、成績落ちたのは」
「私小学生の間ずっと希望のない子って呼ばれたんだからねっ!」
希望梨とてあの日の事は忌まわしい記憶である。
