Anne-アン。最後にeが付く綴りのアンなの…。後に養母となるマリラにアン・シャーリーはそう自己紹介した。
私、桜井希望梨。希望に梨って書いてユメリって読むの。
アンは赤毛をからかったギルバートの頭を石板で叩いた。時代も国も違うので分からない人の為に念の為…。石板とは小さい黒板のような物で、先生から出された問題をそこにチョークで書いて勉強するのである。一応ノートもあったが、今より貴重できっと高価だった為、清書する時しか使わなかったようだ。
希望梨は名前をからかわれた為、稔の頭を新品の教科書の「角」で叩いた。ついさっき先生が配ったばかりの物だ。
アン・シャーリー前に出なさい!確かアンの担任はこう言った。ギルバートが僕が悪いんですと言っても、担任はアンだけを罰した。アンの短気な性格を。
桜井希望梨は担任に呼ばれなかった。教室は静まりかえり、先生の顔からは涙がこぼれた。桜井さん、暴力は…ダメよと言いたかったのだろう。しかし希望梨の耳には届かず、稔とつかみ合いのケンカになった。先生はパニックになって大声で泣きわめき、釣られて何人かの児童も泣き始め、もの凄い騒ぎになった。隣のクラスのベテランの男先生が、何事かと様子を見に来た。
テキパキと男先生が仕切って騒ぎは収まった。
希望梨は初日から校長室に呼ばれ、隣には稔もいた。両者一切自分の非を認めなかった。
呼び出されたお互いの保護者がペコペコ謝っているだけだった。私、先日越して来ました本屋の桜井で…とケイが言うと、あら、私は酒屋をやってまして…と稔の母が答える。
話しているうちに同じ商店街だと分かり、母親同士は仲良くなった。
赤毛のアンをバイブルとするベテランの女先生がいて、後日の職員会議で平成のアンとギルバートですわね、と笑った。校長は笑い事ではありませんと言ったが、他の先生達はじゃああの二人はいずれ結婚するんじゃないかなどと囁いた。アンとギルバートは紆余曲折を乗り越えて成長して結婚するという物語だからである。
そして、二人の母校では平成のアンとギルバート事件は語り種となっている。