『斎木さんのことが好き』
真剣な目で言った雅恵の顔を、今でも鮮明に覚えてる。
雅恵が入社してから、初めて迎えるバレンタイン。
日頃お世話になっている上司に渡すチョコレートを、休日に雅恵と一緒に買いに行った時のこと。立ち寄ったカフェで、雅恵が言ったんだ。
私は、何にも返すことができなかった。
自分の気持ちも言えず、ただ黙ったまま。雅恵が気持ちを打ち明けるのを、聞いて頷くだけ。
斎木さんへの気持ちを話す雅恵の目が、次第に潤んでくる。その目から涙が溢れないようにと、私は見守ることしかできなくて。何にも言えなくて。
ついに溢れ出した涙を見た瞬間、
「応援するよ」
と言ってしまった。
雅恵は知らない。
私が斎木さんのことを好きだなんて。
私から話したことはないし、誤解されるような行動を取ったこともない。
だから、私に打ち明けてくれた。
雅恵は私のことを信頼してくれている。
それなら……
固く口を噤んで、気持ちを封じ込めた。

