運んできた大皿を置いて逃げるように戻ろうとする店員を、武田君が呼び止めた。温かいお茶を頼んで、大皿に並んだ寿司を丁寧に小皿に取り分ける。



終始笑顔だけど、武田君も今日は飲み過ぎたらしい。
私も飲み過ぎた。



いつの間にか、武田君は私の隣りに座っていた。



絶えず何か話していたけど、内容までは覚えていない。ただ、やたら話しかけてくる武田君に笑わせてもらえたことは鮮明。



おかげで沈みがちになっていた気持ちを、なんとか浮上させてもらえたから感謝してる。



ぼんやりと霞みがかった視界には、赤い顔で歯を見せて笑う職場のメンバー。



和室には座卓が二列に並べられ、上座と思われる前方の席に一組の男女が座っている。



照れ臭いのか、それとも単に酔っているからなのか顔を赤らめている女性は雅恵(まさえ)、私のひとつ年下の後輩で武田君の同期。



隣で雅恵に向けて優しい眼差しを注いでいるのは、斎木(さいき)さん。雅恵と私の直属の上司だ。