抱きしめるなら、ここで。


もはや何と答えたらいいのか、わからなくなって。私はただ、黙って見つめ返すしかない。



「奈緒さんのこと好きです。俺を見てくれませんか」



照れ臭そうに武田君は顔を伏せ、再び腕を回した。髪に触れた鼻先を摺り寄せてくる仕草がこそばゆい。



速くなっていく鼓動に耳を澄ませながら、武田君の背中に腕を回した。武田君が応えるように、熱を帯びた体を強く抱きしめてくれる。



「私なんかで……いいの?」
「奈緒さんだからいいんです」



ぎゅうっと腕に力を込めるから、私も。
照れ臭いのはお互い様。



今ここで抱きしめてくれた武田君に、委ねてみてもいいかな。










ー 完 ー