「いいよ、このままでいいから聞いて」
武田君のしっとりした声が、心地よく体に染みてくる。宴席で話していた時の声とは明らかに違う。
ぽんっと、浮かんだ予感に体が強張る。
「武田君、なに?」
恐る恐る尋ねる声が震えて、
まさか? と思った。
身体中が一気に熱を持ってくる。
「ずっと見てたんです。仕事してる時の奈緒さん、すごく綺麗で……でも、奈緒さんが見てたのは俺じゃなくて……」
言葉を詰まらせる武田君の胸の鼓動。
だんだん速くなってくるのが伝わってきたら、私まで……
武田君の言ってる意味がわかってしまったら余計に。
全部見て、気付いていたんだ。
私が斎木さんのことを好きだと。
だから今、こうして……?
「さっき泣いてる奈緒さんを見てたら、我慢できなくて……、ずっとこうしたかったから」
武田君が腕を緩めて、顔を覗き込む。
目を細めて、口角を上げて。
職場では見たことのないような色っぽい笑顔に、胸が大きく揺さぶられる。

