ひょいっと武田君が道を逸れた。
駅に向かう通りを外れて、一筋細い道へ。街灯が少なくて薄暗く、あまり人気のない道には私たちだけ。
ようやく速度を落とした武田君と、並んで歩き始める。
だけど、繋いだ手はまだ離してくれない。
「待ってよ、どこへ行くの?」
上がってしまった息を整えながら尋ねると、急に武田君が足を止めた。
危うくぶつかりそうになった武田君の背中が、くるりと方向転換。振り向いた肩におでこがぶつかると同時に、すっぽりと腕の中に収まった。
飛び退こうとするより早く、武田君の腕が私を包み込む。ぎゅうっと力を込めて抱き締める形。
ますます、訳がわからない。
「奈緒さん」
ぽつんと呼びかける低い声が、体の触れてる部分から伝わってくる。じんわりと熱を持ってくるような不思議な感覚。

