「壊して!壊してよ!」
 少女は16歳。こんな言葉を発するようになってから一体何年になっただろう。
 キッチンからそんな泣き叫び声が聞こえて青年は駆けつけた。さっと当たりを見回し、包丁をしまい、落ちていたカッターナイフを自分のポケットに滑り込ませた。キッチンに落ちている空の薬のシートは二枚。
 20錠か…
 細身の彼女の体をいとも簡単に抱き上げると、彼女の部屋に連れて行った。
 3LDKのマンション。こじんまりとした部屋だが、淡いピンクを基調とした彼女の部屋は、太陽が燦々と差し込む部屋。彼はわざとその明るい部屋を彼女に与えた。彼女は薄暗さを求めるけれど。
「横になるんだ。」
 少し強い口調で彼は言った。彼女はもはや体に力が入らないのか、抵抗することなく素直に従う。
「お願い。殺して。」
「黙れ。目をつぶって。そばにいるから。」
 そう言って、彼は彼女の布団に滑り込んだ。震える肩を強く抱き締め、宙を泳ぐ手を強く握り締めた。ほどなくして、大量に摂取した薬の効果で彼女は眠りについた。
 仕事休みで助かったな。
 そう呟き、彼はしばらくの間彼女を見つめていた。