矢野さん

「朝、食べてきました?」

 突然矢野が話を変えた。

「まぁ……軽く」

「私まだなんです。近くに美味しい喫茶店があるんですけど、良かったらお茶しに行きませんか?」

「え?」

「映画見に行くだけって言うのが申し訳ないので、少しでもお礼させて下さい」

 思いもしない矢野の言葉に目を丸くする。

 なんか……今日は調子が狂うな……。

 でも折角お礼がしたいって言ってくれてるのに断るのも悪いしな……。

「あーじゃあ……お言葉に甘えようかな……」

 俺がそう言うと、矢野は嬉しそうに「はい」と頷いた。

 それは俺に向けた初めての笑顔だった。