矢野さん

 キスだとばかり思っていた為、まさかケーキだったとは思わず拍子抜けした。紛らわしい態度をとらないで欲しい……。


 だが、ロウソクの優しい炎を見るのは何年ぶりだろうか……。


 子供の時、家族みんなで誕生日パーティーしていた頃の事を思い出すと、なんだか懐かしくて思わずクスっと笑ってしまう。


 すると、矢野がバースデーソングを手を叩きながら歌いだした。


 所々音程が外れて吹き出しそうになったが、俺の為に一生懸命に歌ってくれる矢野が可愛くて……愛しくて……。たぶん俺の顔は、矢野が歌い終わるまで終始嬉しい顔をしていた事だろう。


 矢野が歌い終わり、火を吹き消そうとした時――。


「あ、ちょっと待って」


「え?」


 吹き消そうとしていた所で矢野に止められ、思わず隣に座る矢野に顔を向けた。


 と、同時に――。


「――っ!!」


 俺の唇に柔らかな唇が重ねられた。不意を突かれた状態だったので驚いて目を丸くすると、視界は目を閉じた矢野の顔で一杯になる。


 そしてゆっくり矢野が離れると頬を染め、照れながら笑う。


「誕生日……おめでとう」