矢野さん

 矢野に促され、ゆっくり目を閉じた。勿論、唇は尖らさずに。


 さぁ!!念願のキス!!来い!!


 ドキドキと早い鼓動が胸を打つ。


 まだかまだかと、唇に神経を集中させた。


「……」


 あ、あれ……?


 いくら目を閉じて待っていても、何も起きない。


 照れて矢野が躊躇っているのか?何やってんだ?早く来いよ!矢野!


「はい。目開けていいよ」


 へ……?


 まだ唇に何も感触ないんですけど……。


 恐る恐る目を開けると、部屋の電気が消されテーブルの上にユラユラと揺れる2本の光があった。それは綺麗にデコレーションされたホールケーキに、2と9の数字のロウソクが明かりを灯していた。ケーキにはホワイトチョコで作られた板に、チョコレートで『橘さん誕生日おめでとう』と綺麗な文字でかかれてあった。