矢野さん

「……よかったです」

 不意に聞こえた言葉にボタンを留めていた手が止まった。

 矢野を見ると消毒に使った器具を片付けていた手を止め何処か一点を見つめていた。

「……」

「……」

 お互い沈黙が続く――。

 よかった……?

 順調に回復してるのが?

 退院できる事が?

 それとも――俺と顔を合わせなくて済む事が?

 ぐるぐる頭の中で色んな事が回っていると矢野が口を開いた。

「……あの、橘さんは何が好きですか?」

「へ?」

 唐突な質問に思わず間抜けな声が出た。

 何処か一点を見つめていた矢野が俺に視線を移す。
「……助けて頂いたお礼と退院祝いになにか出来たらな、と思って……」

 そう言うと俺から視線を外し足元を見た。