「うまそ~。貰い~」


「俺もいただきまーす」


 丁度お腹が空く時間帯と言うこともあり次々と同僚達がアップルパイを手にとっていくと、あっと言う間に無くなった。


 綺麗に空になった箱を見つめると、一口だけでも食べたかったと、少し後悔している自分がいる事に笑えてきた。


 食べないから皆にあげたのに……。


 フッと鼻で笑うと、空箱をデスクの隅に置くと仕事に集中しようとパソコンに向き直った。


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 アパートに帰宅した頃には夜の10時を回っていた。


 リビングに入ると仕事の疲れと矢野に対する疲れがドッと押し寄せてきた。


 ソファにドガッと腰を下ろすと、はぁーとため息を吐きながら天井を仰ぎ右手の甲で目を覆う。


 今日矢野に会った事を思い返す――。


 矢野のまっすぐな性格は時に厄介だ。自分の想いをぶつけて俺の気持ちは考えてないのか?


 嫌いって言って今度は好きって言って……。どう対応すればいいんだよ。


 俺は矢野に対する想いを忘れようと気持ちを切り替えたんだ。それを急に変えられないんだよ……。