矢野さん

 持って帰っても食べないだろうと思い、残業で残っている同僚達にあげることにした。


 箱をあけると中身はホール型のアップルパイだった。フワッと美味しそうなリンゴの甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。


 前回貰ったロールケーキ同様、丁寧な事に食べやすい大きさにカットされていた。


「わぁー。凄い美味しそう」


 女性社員の佐渡さんが嬉しそうにアップルパイを見つめる。


「これ手作り?」


「ああ……多分」


「凄い上手ね。手作りでこんなに綺麗な網目のアップルパイなんて、見たことないわ。生地からってなると相当時間かかったでしょうね」


「え?」


 佐渡さんの言葉に思わず彼女に目を向ける。


「そんなに時間かかるの?」


 俺がそう言うと、佐渡さんが笑った。


「これだけ手が込んだアップルパイなら時間かかると思うわ。生地からになると……3時間はかかるんじゃない?」


 そう言うと、佐渡さんは「いただきまーす」と言いながら、アップルパイに手を伸ばした。